BtoBとBtoC 後編

2016/12/10

投資




BtoBとBtoCは主にマーケティング用語として使われていますが、前回解説したように株式投資にも応用できます。

さらにそれを応用すれば企業の製品戦略の分析も可能です。
一例として「EV(電気自動車)」と「FCV(燃料電池自動車)」を挙げていきます。

BtoBとBtoCの観点から見ていくと、
EV(電気自動車)はBtoCに強いがBtoBに弱く
FCV(燃料電池自動車)はBtoBに強いがBtoCに弱い
ということが分かります。

自動車市場におけるBtoCが何かと言えば、もちろん自動車の販売台数のことになります。
その点に関してEVはFCVを圧倒しています。
トヨタの燃料電池MIRAIがようやく3,000台超えなのに対して、リーフで知られているルノー・日産はEV販売台数35万台超えなことを考えれば文字通り桁違いです。
ZEV(無排出ガス自動車)のような厳しい規制もEVなら超えられるわけですから、これならばFCVなど作らずEV一本でいいように思えます。なのに何故トヨタやホンダはFCVを作るのでしょうか?その理由は、EVのBtoB方面の弱さ、あるいはFCVのBtoB方面の強さにあります。
BtoB方面で見てみると、EVは非常に弱いことが分かります。本来大々的に協力してもらえるであろう電力会社(新電力含む)ですら十分ではありません。
理由は様々ありますが、EVが普及した場合に系統機器に負担がかかることや、電力ピークの差が大きくなって電力会社の負担が増えることを懸念しているようです。むしろ電力会社がEVの充電をしないことに奨励金を出すという皮肉めいた事態になっています。

それに比べてFCVのBtoBがどうかと言えば、同じく動力源となる「水素」の協力企業を見ると、岩谷産業のような産業ガス会社JX(エネオス)のような石油会社True Zeroのようなアメリカのベンチャー企業果てはコンビニエンスストアなど、普及台数の低さに比べて企業ラインナップは非常に豪華なことが分かります。

何故このような逆転現象が起きるのでしょうか?
それはEVとFCVのビジネス性の違いにあります。

まず、EVが大きく普及したとしても、テスラのようなEV専売メーカーは儲かりますが、既存の自動車メーカーは販売ラインナップが変わるだけですし、電力会社も本当に利益が出るかは怪しいところです。しかし、FCVは自動車であると同時に発電インフラでもあるので、もし大規模に普及すれば、燃料電池自動車のメーカーはインフラ企業としての側面も持つことになります。これは売上拡大にも繋げるる事が出来、非常に魅力的です。自動車メーカー以外でも、石油会社などは現在のスタンド過多の三重苦から抜け出して、水素ステーションで先行者になれれば大きな利益を得ることができます。このような事情があるために、(メーカー以外の)企業はEVよりもFCVを好む傾向にあります。

話が脱線しましたが、製品戦略分析の話に戻します。
このように製品によってBtoBに強いかBtoCに強いかという特徴があるので、

企業の状態によって取るべき製品戦略、取るべきでない製品戦略

というものが出てきます。
例えばトヨタ自動車のような、日本でも世界でも大きな販売数がある、つまりBtoCが既に強い企業が、BtoBに強いFCV(燃料電池車)に手を出すのは、非常に妥当な製品戦略と言えます。これ以上販売数(BtoC)を伸ばしても、むしろ増やしたことによるリスク(リコールや市場変化など)が増大してしまうので、むしろ他業種と関係を持てるBtoB製品(燃料電池車)に手を出す方がリスクが低くなり、将来的に大きなリターンを得る可能性もあるのです。
また、三菱自動車のような消費者の信頼を失った(BtoCが弱くなった)企業がFCVに手を出さないのも妥当な戦略です。消費者に信頼されてない(BtoCが弱い)ような企業を他企業は信頼しません。燃料電池車を販売しようとしても総スカンを喰らうでしょう。FCVに比べてBtoCが強いEV(PHEV)を販売して耐え忍ぶしか戦略は無いかと思います。

駄目なパターンとしてはVWのEV化戦略で、排ガス不正等々で信頼を失ったとはいえ、未だに世界1,2を争う販売台数の自動車メーカー(つまりBtoCが強い)が将来的にEV(BtoC製品)1本でやっていこうという戦略自体が、無理無茶無謀で、あまりに環境の変化や他企業を顧みない独善的で(BtoCに)偏った戦略と言えます。

このようにBtoBとBtoCという軸を用意して分析してみると、深いところまで企業を分析することができました。今回はBtoBとBtoCを使ったというだけで、このような分析手法は他のことを軸にしても役に立ちます。あくまで分析なので、それに対してどう行動するかが結局の成果に繋がります。しかし、例え失敗への道だとしても、しっかりと分析することは企業や投資への深い理解に繋がります。

【執筆:T.I.】