『リスク回避の円高』とは何か?

2016/11/26

投資




「リスク回避の円高」を解説するためにはまず、アメリカの通貨"ドル"の重要性を理解する必要があります。

"ドル"という貨幣の使われ方はアメリカの通貨だということに留まりません。現代社会には必要不可欠な原油(石油)などの重要な取引は全てと言っても過言ではないほどドルで取引されています。なので、いわゆる海外と貿易する企業には、事業運営のために大量のドルが積み上げられています。さらに、自国通貨が例えばジンバブエドルのように紙くずになって、必要なドルと交換できないという事態を防ぐために、大量のドルの上にさらに多めにドルやドル建て債権などを保有しています。
こうして、海外と取引のある企業には大量のドルが積み上げられていきます。

これが「リスク回避の円高」を理解するための前提条件です。

ただ、ドルに偏って積み上げていくのはバランスが悪いと言わざるをえません。海外と取引する企業でも当然ながら国内企業へ自国通貨での支払いは存在します。さらに"ドル"は世界的な通貨故に(世界的な通貨でも)、世界的なイベント(戦争や原油高など)の影響を受けます。もし、考えなしにドルを積み上げていると、突発的なイベントでドルの価値が下がって、自国通貨に換算した時の価値が下がって、大赤字になるという事態にもなりかねません。
そういう事態を防ぐために企業は"ドル"からの逃避先、つまり両替先を探しています。上記したように、企業が積み上げたドルの中にはすぐには使わない遊びの部分が存在します。部分といっても、元々が大量なので実際は結構な金額になります。ドルから「逃げる」取引にはこの部分が充てられます。

ドルと交換するからにはドルよりも高くなりそうな通貨の方が良いと企業は考えます。
円で例えれば、1ドル100円の時に100ドル分を両替して10,000円にしたとして、その後に円の価値が高まって1ドル80円で交換できるようになれば、10,000円を80で割れば良いので、結果として125ドルに増えて帰ってきます。

「逃げた」はずなのに結果として儲かるのです。

しかしながら、どの通貨でも「逃げる」ことに使えるわけではありません。
世界中の殆どの通貨は、ドルのごく一部といえどもそんな大量の取引には耐えられません。耐えられなければ最悪の場合は経済崩壊で通貨が安くなってしまうので、逃避先としては不向きです。
例外は、ドルと並んでG3通貨と呼ばれる、「ユーロ」「円」です。
これらの通貨は地盤となる経済も大きく、日常的にドルと大量の取引を行っているため、急に逃避先として選ばれたとしてもパンクすることはそうそうありません。ただしこの「ユーロ」が曲者で、数字上は日本円よりも経済基盤や流通量は多いのですが、EU(欧州連合)による特殊な通貨ゆえに、現在では様々な問題が指摘されています。
まず問題なのが「カントリーリスク(その国固有の問題)」で、ユーロはユーロ圏と呼ばれる領域の中に19カ国も抱えていているので、1国通貨と比べて単純計算で19倍もの「カントリーリスク」を抱えています。
記憶に新しいギリシャ危機がまさにそれで、ギリシャは経済規模ではユーロのごく一部でしかありませんでしたが、その「カントリーリスク」はユーロという通貨自体を大きく揺さぶりました。また、欧州連合と密接な通貨故に、ユーロを採用していない国の影響すら大きく受けます。
イギリスのEU離脱がまさにそれで、イギリスはポンドという独自通貨を採用しているにも関わらず、欧州連合への不安が、それと密接に関係するユーロへの不安へ繋がり、かなり不安定な値動きが続きました。

他にもまだまだ問題点はありますが、とくかくユーロは不安定すぎて逃避先としては使えないということです。他にもかつて基軸通貨であったポンドや政治的理由で逃避先として人気が高かったスイス・フランなどがあります。しかし、ポンドは殺人通貨と呼ばれるほど値動きが荒く、スイスは常に政府が介入を公言している国であるのでリスクが高すぎます。そして全ての通貨が消えた結果、

消去法として「円」が買われるのです。

円が買われた結果、円の価値が上がり円高になります。これがリスク回避の円高の正体です。

【執筆:T.I.】