昨日は久しぶりに葉隠全巻の文庫本を見つけたので読み耽ってました。全て現代語訳されているので葉隠シリーズの中では読みやすい方です。
葉隠といえば「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」という言葉が有名な本です。現代のジャンルで言えばエッセイですが、随筆や伝記の要素もあります。葉隠を理解するには上の一文よりも、原作者である山本常朝(じょうちょう)と筆者である田代陣基(つらもと)の心を詠んだ句から入るのが一番です。
浮世から 何里あらうか 山桜 常朝(51歳/隠居)
白雲や ただ今花に 尋ね合ひ 陣基(32歳/無職)
前半の句には茂みを掻き分け、岩に張り付きながら、辺境の地に住む常朝の元を訪れた陣基に対する驚愕の念と歓迎の気持ちが表されています。この頃の田代陣基は13年努めた殿様の祐筆(代筆役のこと)をクビになり、絶賛浪人中でした。その間、良き人生の師を探し歩き、ようやく見つけたのが常朝と言えます。
後半の句には、51歳のオッサンを花と呼ぶ陣基の強い思慕の念があります。常朝にも陣基と同じく殿様の不興を買って御役御免になった時期があり、また素行の悪い他所の養子を諭したりと今で言う民生委員のようなこともしていたので、そのことを人伝に聞いて陣基は訪れたのでしょう。
これだけでも『葉隠』を武士道や戦陣訓のルーツとしている人にはかなり意外かと思います。特に筆者である陣基からは、霧中で戦って死ぬような男らしさよりも、女脈(作中の単語、今で言う女々しさ)を感じられます。そんな稚児のような田代陣基と、隠居して10年近くの山本常朝が、7年かけて作り上げたのが『葉隠』なのです。
そんな2人の手間暇に免じて葉隠を読んで見ませんか?
まあ現代語訳と言っても1940年の現代語ですけど。
……投資関係の話のネタ切れではありません、念の為。
ちなみに、陣基さんは葉隠完成させた15年後に無事祐筆に返り咲けたそうです。
よかったネ。
【執筆:T.I.】
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